対象書名:『トンデモ科学の見破りかた、もしかしたら本当かもしれない9つの奇説』ロバート・アーリック著、垂水雄二・阪本芳久訳、 草思社、1700円+税
掲載紙:産経新聞
年:2006.3
「紫外線は体にいいことの方が多い」と か、「石油は生物起源でなく、地球深部の至るところにある」、「光より速い粒子タキオンは存在する」とかいわれたら、あなたも含めて大方はウソだと思うだ ろう。しかし本書は、「そうであってもおかしくない」という、トンデモ度ゼロの説明だと結論する。一方、「銃を普及させれば犯罪率が下がる」とか、「エイ ズの原因はHIVではない」とか、「宇宙の始まりはビッグバンはウソ」とかの一部科学者の主張は、「ほぼ確実に真実でない」、トンデモ度三の奇説だとい う。こうした判別はどうしてつけるのか。本書はいま示した例を含む九つの珍説・奇説を取り上げて、判定方法を吟味していく。ちなみに著者はタキオン説を主 張する啓蒙物理学者である。
「トンデモ」ない考えをクレイジーというが、それは現行の科学理論と一致しない突飛な側面を指すだけで、内部矛盾がなく論理が通り基本原理に矛盾しない 考えである。「デタラメ」を意味するナッティな考えとは違う。そこで著者は冒頭、判別の手掛かりを十個挙げる。デタラメか、だれが提案者か、執着度は、統 計のウソは、政治的意図は、任意な設定値が少ないか、他人の支持データがあるか、厳密な予測があるか、公開度は、常識にかなうか、である。終章で、真の科 学理論は「反証可能性」がなければいけないという、科学哲学者ポパーの判定法にも触れている。
科学の装いをしてデタラメな話は多い。ビタミンやミネラルは身体によいからといって摂りすぎたら害になる。逆に放射線や紫外線も大量に浴びたら害がある が、少量ならかえって良いという「ホルミシス」効果の考えもある。「被爆者は長生き」というホルミシス効果を思わせるある統計事例を吟味して、その統計結 果は任意なデータ選択の結果であって、ガン以外の死因のみ、男性のみ、長崎のみ、特定18年間のみ、という選択のなせる業で信用できない、と切り捨てる。 科学的思考とは何かを考えさせる、面白くてためになる、しかしちょっと手強い本である。