松ヶ岡文庫所蔵の一万冊近い洋書の目録化が、ボランテアの協力で、一年ほど経って目鼻もつき始めた。その整理中、米国を離れる直前に大拙がビアトリスに贈った、瀟洒な手掌本がつい最近見つかった。街道筋や富士山・芸者寝姿から阿蘇山火口まで、五十点の写真を配してエキゾチックな興味を誘う日本案内の、クリーブ・ホランド著『シングズ・シーン・イン・ジャパン(日本事物拝見)』、一九〇七年、ニューヨーク刊である。この扉に献辞がついていた。「びあとりす、君が吾が日本に興味を持てる様よろこびて此小冊子を贈る 貞」とあり、上には ‘To Biatrice san from Tei’と英語表記で、一九〇八年二月の日付けがある。公開書簡は同年二月二十五日付けで、「あなたからこんなにもたくさんの優しさと贈り物をいただいた」とあるから、その贈り物の一つだったのだろう。